紀行文の部屋

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七尾線変身前夜 1

両端をJR線から分離され能登半島を孤立した形で走る七尾線には製造から50年に迫る桁外れに古い車両が未だに幅を効かせている。いつかは乗りたい、そう思っているうちに新型車両の投入が1週間後に迫るところまできた。新型車両がそこに1両でも混じり合えば純度は途端に薄れもう乗車しても手遅れだと思った。今あるいわゆる「国鉄車両」とは一線を画し全盛期を国鉄で送った、バリバリの国鉄マンが行き交う景色を眺めてみたい。

 

令和2年9月27日、始発の新幹線で金沢へ向かう。わざわざ新しいものに乗って進んで古いものを愛でに行くというのは実に滑稽である。駆逐されてゆく列車にピンポイントで乗車する時代、今後こうゆう事が多々あるのだろう。最初の1時間は一生懸命車窓を眺め僕はそこで初めて野立て看板というのを目にした。だが大宮を出て速度がグンと上がり高崎を出てトンネルばかりになると早起きもあってか眠ってしまい、目覚めると右手には日本海が広がっていた。

 

8:46、金沢着。乗り継ぎに1時間の余裕があったから駅前に出てみるが立派なモニュメントと控えめな噴水の他には車が行き交うばかりで街に出るにはバスに乗る必要がありそうだ。迷った挙げ句朝食は吉野家で済ますことにした。実に消極的選択ではあるが洒落たパンのセットなどでは埋まりそうにない空腹を覚えていたので牛丼は僕を大いに満足させた。

 

誕生日に貰い、使いそびれていた「スターバックスコーヒー」のクーポン券の存在を思い出したため駅ナカのスタバへ。オタクが乗りがちな臨時快速列車の指定席券と同額のコーヒーなど贅沢の象徴なので「お飲み物もいかがですか」「いいえ結構です」と迷いなく宣言した。¥300足らずの食べ物を丁寧に包み渡してくれた店員さんに「よかったらコーヒーひと口でもどうですか」と言われた。僕は最初言葉の意味がよく分からなかった。クーポン券上限額を税込で計算してメニューの前で迷い込んでいる、お金がなくて、多分スタバよりもマクドナルドを好むような残念な少年に多少なりとも甘味のアクセントをサービスしてあげようということなのだろうか。少なくともそれはチェーン店のマニュアルには到底書かれていないであろう一文であった。

 

不意打ちを食らった僕はマスク越しにもごもごしてやっとのことで「大丈夫です」と残し足早にホームへ向かった。貰っておけば良かったなぁ…