紀行文の部屋

紀行文をこよなく愛す15才が作る「紀行文専門サイト」

七尾に着くと直ぐに反対ホームへ走り11:35発の列車で今来た道を折り返す。ちょうど左窓にはつい先ほどまで相席していたおじさんの横顔が見え新手のヒステリーに使えそうだなと思いつつ、別れたばかりの若者が反対列車に乗り尚且つ自分の真横にいたら心臓に悪いだろう。そう思い列車がホームを抜けるまで身を屈めておいた。

 

今回の目的は車両を体に染み込ませることであるから1秒でも長く車両に乗っていたい。本津幡まで引き返し、交換列車に乗り換え、再び七尾を訪れることになっている。車内は先ほど同様転換クロスシートが並んでいたが車内の端にある一角だけは時代に取り残されたように古い佇まいでいる。僕はそこに座り本津幡までの時間を過ごすことにした。

隣にあったトイレもまた古く、和式便所とペダル式の洗面台がいい味を出し僕をご機嫌にしてくれる。どうしてこんなものを愛でる中学生になってしまったのだろうと思う。トイレを前にいい気分な反面、いつしかペダルを押さずとも水が流れるトイレが全国一律に線路を走る日がやってくると思うとやはり寂しい。目先の話ではないがそう遠い未来でもないだろう。革新的なテクノロジーと不便で古いものが混じりそして入れ替わる、まさしく技術・文化の転換期に生まれた我々には古いものの味を最後に噛みしめられるチャンスがある。共に老兵の甘味を吸い取ろうではないか!

その後は、ぽかぽかの陽気とふかふかの座席に身を委ねうるさいモーターとジョイント音を子守唄に眠った。目を覚ますと金沢からの特急通過待ちのために暫く停車しているようだった。ずいぶん長く停車しているように思えたが、後で時刻表を開くとそうでもなかったらしい。だらだらとまどろみ、12:48、中津幡着。時を同じくして発車する七尾行は間も無く入線してくるところだった。乗っていた列車が逆の立場であったら0分乗り換えは失敗に終わっただろう。僕は賭けに勝ったわけである。

 

乗り換えた七尾行がまた愉快な旅だったのだが、それは次の話に。