紀行文の部屋

紀行文をこよなく愛す15才が作る「紀行文専門サイト」

始発でいこう。群馬。

鉄道旅行は始発列車に限ると思う。

同行者がいれば自重するが、今日の様にフリーきっぷを使用する時なんかは始発に乗るのが義務のようにすら感じられる。僕は始発列車に乗ると決めて寝坊したことはただの一度もない。昨日は学校に5分程遅刻したが、今日は朝4時にぱっちり目を覚ました。要は心の持ちようである。本日は群馬に出掛けるわけだが、肝心のフリーきっぷをまだ買っていない。だから余裕をもって家を出た。辺りはまだ真っ暗である。

 

駅員にフリーきっぷの名を告げるとタブレット端末をいじり、「ここでは売ってませんねえ」と言う。フリーエリア内でしか販売していないらしい。私が使用しようとしているこの切符は、群馬県内のJRと私鉄のほとんどが乗り放題で2200円と、中々太っ腹なフリーきっぷである。県内に4つある世界遺産に寄らせる魂胆であろうが僕はそのどれにも寄らない。興味が無い訳ではなく、むしろあるのだが、世界遺産の開園は軒並み9時と中途半端で、始発列車で出掛けるのを生業としている身としては扱いずらい存在なのである。そうこうしているうちに始発は行ってしまい、次に乗ることになった。行程に影響はないから良いのだが、30分もホームで待つはめになった。

 

眠っているうちに高崎に着いていた。ドアを開けると朝日が眩しい。ここからが今日の旅行の本番である。理想的なスタートを切ったな、と嬉しくなり、一人ニヤリと不気味な笑顔を浮かべた。しかしホーム上の助役はそんな余韻を与える間も無く乗客を急かす。隣に止まる横川行の電車との接続時間は僅か1分。電車は私が乗車するのと間髪なく発車した。高崎駅を出ても予想に反して新興住宅が林立しており、おや?と思ったが、隣駅・北高崎を過ぎるとのどかな風景が広がったので安心する。途中、安中という駅に亜鉛工場の引込線があって、現在でも福島まで貨物列車が走っているという。安中駅を出ると、なるほど確かに工場が建っている。しかし随分急斜面にある。

 

8:03に横川に着き、フリー切符を求めるがそこでは発売しておらず。折り返しの電車に乗って普通運賃で群馬八幡を下車。聞けばだるまをたくさん置いた寺があるそうだが、車窓から見えた赤い鳥居に向かって足を進め石段を上ると目の前に現れたのは何の変哲も無い寺であった。何だとがっかりしていたが、こちらも歴史があるようなのでまあいいかと思って駅に戻る。帰りにセブンイレブンよもぎ餅を買っていると踏切が鳴り始めた。全力疾走したが無残にも棒が半分降りかかっていて、渡ろうと思えば渡れたが小心者の僕にできる筈もなく、踏切の棒は僕の目の前でだらしなく垂れた。目前に乗車予定の電車が颯爽と走り抜ける。ホームに停車した電車は、10秒も経たずしてドアを閉じ、発車した。僕は電車に乗り遅れた。

次の列車は40分後にある。しかしこれに乗れば僕が一昼夜掛けて作成した渾身の行程が崩れる。僕はそれが惜しくて何を血迷ったか高崎駅まで歩くことにした。時刻は9:52、高崎からの乗り換え列車は10:25である。今思えば無謀な挑戦であったが、この時僕は根拠のない自信を覚え、悠々と足を踏み始めた。

スマートフォンが故障しており、地図アプリの使用ができなかったので線路に沿って足を進めていると、道中水上駅へ向かうべく逆向きに走る臨時SL列車に出会った。畏敬の念すら抱かせるSLが後ろ向きに一生懸命動輪を動かす姿(自走はしていないのだが)は少し滑稽に思える。ここまではそれなりに順調な足取りであった訳だが、目先に大きな川が存在するのを目視し、回り道をしようとした結果道に迷い、30分以上足止めをくらって、行程にあった高崎10:25発・731M列車はそうこうしているうちにおそらく行ってしまった。少なくとも発車時刻は過ぎた。あまりにも道を抜け出せないのでタクシーに乗ろうと2車線の道路で待ち構えるが、一台たりとも通らない。ヒッチハイクでもしようかナと本気で悩んでいるとなんと僕が立つすぐ横にバス停が佇んでおり、行先には高崎駅の文字がある。1時間に1本の運行で、15分前にここを出発したようであるがここで待つことにする。

バスは迷っていた道だとは思えないくらい軽やかに進み遂に高崎駅に到着したのが正午のこと。ようやく帰ってこれたという感情も相まって、随分立派な駅舎に見える。ここからは遅延分の行程をカットし、本来の行程に復帰できることとなった。お天道様はすっかり頭上に昇ってしまったが、ようやくフリー切符を手にし、駅前で買った味噌饅頭片手に意気揚々と列車に乗り込む。高崎から30分程列車に揺られ、13:33渋川着。渋川からは上越線から枝分かれし、吾妻線を利用する。かねてより是非行きたいと思っていた所に近づきつつあるから少し単純な行程にも我慢ができる吾妻線で1時間ほど行くと長野原草津口駅に着く。しかし駅前は閑散としており、駅から30分程バスで行ったところにそれはある。

 

バスターミナルに着くと早歩きで湯畑への道を下る。行程の関係上観光をしていられるのは1時間のみだ。有名な西の河原公園を見に行った後、押しつけがましいことで有名な饅頭屋にて試食の饅頭を押し付けられ、最後は「白旗の湯」という公衆浴場に入りバスに乗り込んで帰路についた。かなり慌ただしい観光となったが、金は一銭も使わずに満足した観光ができ、試食を貰おうとするがめつさを前面に出さずとも腹が膨れるなんてなんて素晴らしい観光地なんだ!世間体からスーパーの試食に近寄れないそこのあなた、草津温泉では手を空けているだけで勝手に饅頭が転がり込んできます。

 

 

2019年9/29実施